「ぎっくり腰」は正式な病名ではなく、急に腰へ強い痛みが起きた状態を指す言い方です。多くは数週間のうちにやわらいでいきますが、なかには早めの受診が望ましい状態や、すぐに医療機関へ相談したほうがよいサインもあります。このページでは、受診の必要性とタイミング、診療科を、症状の見分け方とあわせて整理します。自宅でできる初期の対応についてはぎっくり腰の応急対応のページもあわせてご覧ください。
まず確認したい受診の3段階の目安
痛みの強さだけでなく、しびれや力の入りにくさ、排尿排便の変化などによって、受診の急ぎ方は変わります。下の表を目安として、当てはまるところを確認してみてください。なお、ここに挙げる状態はそれ自体で病気を確定するものではなく、医療機関で詳しく調べたほうがよいかどうかを判断するための目安です。
| 緊急度 | 目安となる状態 | 行動の目安 |
|---|---|---|
| 今すぐ相談 | 尿や便が出にくい・もれる、股やお尻まわりの感覚が鈍い、両脚に力が入らない、転落や交通事故のあとに痛みが出た、発熱や悪寒をともない全身状態が悪い、胸やお腹の強い痛みをともなう、短時間でどんどん悪化している | 夜間や休日でも、救急も含めてすぐに相談します |
| 当日〜早めに受診 | 痛みで立つ・歩くなど生活の動作が大きく制限される、片脚のしびれや痛みが強い、時間の経過とともにじわじわ悪くなっている | その日のうち、または数日以内に整形外科などを受診します |
| 経過をみて相談 | 動くと痛むが休むと楽になる、しびれや脱力はない、日ごとに少しずつ楽になっている | 改善の流れを確認し、変化が乏しい・悪化する場合は相談します |
今すぐの相談を考えたい危険サイン
次のようなサインがある場合は、様子見を続けずに相談することがすすめられます。当てはまるからといって過度に不安になる必要はありませんが、放置せず専門家の評価を受けるための目安と考えてください。
「痛くて動けない」と「力が入らない」を分けて考える
痛みのために身体を動かせないのは、ぎっくり腰ではよくあることで、楽な姿勢をとると軽くなる傾向があります。一方で、痛みの強さとは別に、足首やつま先を思うように動かせない、片脚あるいは両脚を持ち上げられない、といった筋力そのものの低下は、神経への影響を示すことがあり、より早い評価が望まれます。「動くと痛い」だけでなく「動かそうとしても力が入らない」ときは、区別して受診の相談をしてください。
排尿・排便の変化
尿が出にくい、尿意や便意を感じにくい、あるいは自分の意思と関係なくもれてしまう、といった排尿排便の変化は、腰の神経の束への影響を疑う目安のひとつです。痛みが強いかどうかにかかわらず、こうした変化があるときは早めに相談します。
股やお尻まわりの感覚の低下
股のあいだ、お尻の下側、自転車のサドルが当たるあたりの感覚が鈍い、しびれる、といった変化も見逃したくないサインです。排尿排便の変化や両脚の脱力とあわせて起きている場合は、とくに急いで相談したい状態です。こうした腰まわりの症状で受診が必要な状況の見きわめについては、英国のNICEガイドラインでも、重い病気を疑う所見の有無を確認することの大切さが示されています(NICE 腰痛・坐骨神経痛の診療推奨)。
何科へ行けばよいか
ぎっくり腰の受診は整形外科が中心になります。腰や脚の症状を専門にみる診療科で、必要に応じて画像検査や神経の状態の確認を行います。腰痛全般の一般的な説明や受診の考え方は、日本整形外科学会の解説も参考になります(日本整形外科学会 腰痛)。症状ごとの目安は次のとおりです。
| おもな症状 | 受診の目安となる窓口 |
|---|---|
| 腰の痛みが中心で、脚の症状は軽い | 整形外科 |
| 脚のしびれや痛み、力の入りにくさをともなう | 整形外科(脊椎を専門的にみる医療機関だとなお安心です) |
| 排尿排便の変化、股の感覚低下、両脚の脱力がある | 整形外科の救急対応、または救急外来 |
| どこにかかるか迷う、まず相談したい | かかりつけ医や地域の相談窓口に電話で相談 |
診察でおこなわれること
受診したとき、どのようなことを聞かれ、何を調べるのかを知っておくと、当日あわてずに済みます。大きく分けて、問診、身体診察、必要に応じた画像検査があります。
問診
いつから、どんな動作をしたときに痛くなったか、どこが痛むか、しびれや力の入りにくさはあるか、排尿排便に変化はないか、発熱はないか、これまでに腰の病気やけがをしたことがあるか、といった内容を確認します。受診前に整理しておくと、短い時間でも伝えやすくなります。
身体診察
立ったり座ったりする姿勢や身体の動き、腰を押したときの痛み、あおむけで脚を持ち上げる動きでの痛みの出方、脚の感覚や筋力、反射などを確認します。「痛みで動けない」のか「力が入らない」のかを、実際に動かしながら見分けていきます。
画像検査
レントゲンやMRIなどの画像検査を行うことがありますが、ぎっくり腰の全員に最初から必要というわけではありません。NICEガイドラインでは、重い病気が疑われる場合や、検査結果によって治療の方針が変わる場合を除き、腰痛に対して画像検査を一律には行わないことがすすめられています(NICE 腰痛・坐骨神経痛の診療推奨)。加えて、画像に写る加齢による変化が、いま感じている痛みの直接の原因とは限りません。問診と身体診察をふまえて、検査が役に立つと判断されたときに行われる、という流れになります。
受診前の30秒メモ
診察をスムーズにするために、次の項目を短くメモしておくと役立ちます。スマートフォンのメモでも、紙でもかまいません。
- いつから痛むか、きっかけになった動作
- 痛む場所と、脚などへの広がり
- しびれや力の入りにくさの有無と、その部位
- 排尿排便に変化があるか
- 発熱や悪寒があるか
- 飲んでいる市販薬や、持病・服用中の薬
- いちばん困っている動作(起き上がる、座る、歩くなど)
自分で運転しないほうがよい場合
受診のための移動で、自分で車を運転するのを控えたほうがよいのは、次のようなときです。安全に運転できる状態かどうかを、痛みの強さだけで判断しないようにします。
- 脚に力が入りにくい、または感覚が鈍いとき
- 痛みで急ブレーキやハンドル操作に不安があるとき
- 痛み止めなどで眠気が出ているとき
- 座る、振り向くといった動作がつらいとき
こうした場合は、家族の送迎、タクシー、公共交通を利用します。動けないほど強い痛みや、今すぐ相談したい危険サインがあるときは、無理に移動しようとせず、まず電話で相談してください。
よくある質問
ぎっくり腰は病院へ行かず自然に和らぐこともありますか
しびれや力の入りにくさ、排尿排便の変化などがなく、日ごとに楽になっている場合は、経過をみながら過ごせることも多いとされています。英国のNHSの解説でも、腰痛の多くは自然に改善に向かうと説明されています(NHS 腰痛)。ただし、危険サインがある場合や、改善が乏しい場合は受診を検討してください。
何日ようすをみてよいですか
はっきりした改善がみられ、しびれや脱力がなければ、できる動作の変化を見ながら経過を確認できます。逆に、時間とともに悪くなる、生活の動作が大きく制限される、といったときは早めに受診します。回復のおおまかな流れはぎっくり腰の回復の見通しのページも参考にしてください。
冷やすのと温めるのは、どちらがよいですか
どちらが全員に当てはまるという決まった方法や時間があるわけではありません。発症直後は冷やすと楽に感じる人もいれば、少し落ち着いてから温めるほうが心地よいと感じる人もいます。心地よいと感じるほうを選んでかまいません。
安静にして寝ていたほうがよいですか
長く寝続けるよりも、痛みの範囲で少しずつ日常の動作を続けるほうが回復によいとされています(NHS 腰痛)。ただし、無理に動かして痛みが強く出るときは、その動きは避け、楽な姿勢で休みます。
整形外科と整骨院のどちらへ行けばよいですか
しびれや力の入りにくさ、排尿排便の変化などがあるときや、原因をきちんと調べたいときは、まず整形外科での診察がすすめられます。画像検査や神経の状態の確認は、医療機関で行われます。
まとめ
ぎっくり腰は状態を指す言い方で、多くは経過のなかで和らいでいきます。受診の急ぎ方は、痛みの強さだけでなく、しびれや力の入りにくさ、排尿排便の変化、股まわりの感覚の低下といったサインで見分けます。尿や便のトラブル、股の感覚低下、両脚の脱力、事故のあと、発熱、胸腹部の強い痛みがあるときは、今すぐの相談を検討してください。生活の動作が大きく制限される、脚のしびれが強い、じわじわ悪化しているときは、当日から早めの受診が目安です。受診先は整形外科が中心で、問診と身体診察をふまえ、必要と判断されたときに画像検査が行われます。全員に最初からMRIが必要というわけではありません。受診前に短いメモを用意し、運転に不安があるときは送迎や公共交通を使って、無理のない形で相談へつなげてください。